文:店長(USED CD, VINYL & AUDIO & VINTAGE CLOTHING STORE AU-PARA)
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10月14日。
朝のニュースで彼の訃報を知った瞬間、しばらく何も手につかなかった。
R&B、いや“現代ソウル”の中心にいつもいた男――D’Angelo。
51歳という若さで、静かに旅立った。膵臓がんとの長い闘病の末だったという。
彼が遺した音は、ただのヒット曲ではなかった。
心の奥に灯りをともすようなグルーヴ、
音の一粒一粒が語りかけてくるような、まるで“魂そのもの”の振動。
彼の作品には、時代を超えて“生きた音”が封じられていた。
マーヴィン・ゲイは44歳で亡くなり、マイケルジャクソンは50歳、プリンスは57歳だった。
ディアンジェロもめっちゃ好きやったから。
1995年。
ネオソウルという言葉がまだ曖昧な響きだった頃、
D’Angeloの『Brown Sugar』が街角のスピーカーから流れてきた。
それは当時のソウルやR&Bが失いかけていた「温度」を取り戻す一枚だった。
ブラック・ミュージックの歴史を背負いながらも、
同時代の空気――ヒップホップの硬質なリズムやジャズの呼吸――を溶かし込んでいた。
彼の音楽は“懐古”ではなく“再構築”。
古いソウルの香りをまといながらも、現代の都市を歩くようなリアルさを持っていた。
デビュー作にして、すでに完成形。
ドン・ハサウェイやスティーヴィー・ワンダーへの深い愛を感じさせながらも、
決して誰かの模倣ではなく、“D’Angeloというジャンル”を作り上げた作品。
タイトル曲「Brown Sugar」の揺れるリズム。
「Lady」の柔らかいファルセット。
「Cruisin’」の空気を切るようなギターのカッティング。
全編に漂う“生演奏の温度”が、この時代のソウルに新しい命を吹き込んだ。
アナログ盤の初期プレスは、
独特の低音の粘りとボーカルの深みが際立ち、査定でも人気が高い。
盤質が良好であれば、今なお非常に高価な取引例が見られる。
“現代ソウルの金字塔”と呼ぶにふさわしい一枚。
彼が本格的にスタジオという“楽器”を操り始めた作品でもある。
クエストラヴ(The Roots)やピノ・パラディーノらが参加し、
リズムとグルーヴが有機的にうねる。
まるでレコーディングブースの中で空気が溶け合うような、
ひとつの生命体としての音楽。
「Untitled (How Does It Feel)」の濃密なスロウ。
「Devil’s Pie」の荒削りなグルーヴ。
どの瞬間にも、彼自身の“魂の呼吸”が聴こえる。
このアルバムを初回US盤で聴くと、音の立ち上がりが違う。
録音時の湿度まで再現されており、再生環境次第では“空間が立ち上がる”ように感じる。
査定時にはラベル表記(Virgin Recordsロゴの初期タイプ)や刻印番号にも注目だ。
長い沈黙を破って放たれた帰還作。
時代は変わり、社会は不安を抱え、世界は再び混沌としていた。
そんな中でD’Angeloは、自身の音楽を「祈り」として提示した。
リズムは重く、音像は深く、
歌はまるで預言のように響く。
「Really Love」や「The Charade」に流れるのは、
彼の内面と世界が直接ぶつかり合った瞬間の息づかいだ。
Black Messiahは、単なる復活作ではない。
音楽を通じた“社会的な祈り”であり、
彼の人生と思想が融合した最終章。
この作品を最後に、彼はまるですべてを語り終えたかのように沈黙した。
D’Angeloのアルバムは、どれも単なる“作品”ではなく、
録音現場そのものが“音楽”になっている。
マイクの距離感、空気の湿り、演奏者同士の呼吸、
それらすべてが音の中に残っている。
レコードを扱う者として言えるのは、
こうした作品は盤の状態やプレス以上に“聴かれ方”そのものが価値になるということ。
誰かが、ある部屋で、ある時間に、どんなスピーカーでこの音を聴いたか。
その記憶がまた、別の誰かのもとへ渡る――。
それがアナログという“メディアの奇跡”だと思う。
もしあなたの棚に、
D’AngeloのLPやCD、
あるいはネオソウル、R&B、ヒップホップ、ジャズなどのレコードコレクションが眠っているなら、
今こそ、その音の記憶を次の世代へ繋ぐときかもしれません。
スタッフが一枚一枚丁寧に確認し、音楽の背景とともに価値を見極めます。
大切にしてきた時間と想いを、誠実に受け継ぎます。
D’Angeloの音を聴くと、部屋の空気がゆっくりと呼吸を始める。
針が溝に触れた瞬間、それは過去でも未来でもなく“いま”になる。
彼の音楽は、聴く者の中でいつも“現在”として鳴り続けるのだ。
彼がいなくなったいまも、
彼の残したレコードは静かに回り続けている。
“音”とは、そういうものだ。
人がいなくなっても、その温度だけは生き続ける。
私たちは、その温度を守りたい。
レコードに刻まれた記憶と、音のぬくもりを、
次の誰かの手に丁寧に渡すために。
D’Angelo――あなたの音は、
これからも世界のどこかで鳴り続ける。
— 店長


